黒猫の正体

実のところ、見つかるのは時間の問題だと思っていた。
だからペルソナが現れたとき、驚きはしなかった。人の姿をしていなくても、ヤツの能力をもって捜せば、簡単に見つけ出すことが出来るからだ。そこまでは想定内だった。問題はその後だ。
国の機密に関わる、裏中の裏仕事に関わっていた人間は、その人間が任務中に死に直面するような場に出くわしたとき、死体があがるまで徹底的に捜索される。
仕事とはいえ、国家の存続に関わる極秘情報を大量に得ている人間を中途半端な状態にしておくわけにはいかないからだ。
したがって今回の場合、死んでいることを前提として捜索をしていた可能性は大きいだろうが、生きているとなれば対処の仕方が変わってくることは避けられない。

オレは、生まれつき特殊な能力を持っていた。その能力を使うと、黒猫の姿に変わることが出来るというものだ。因みにこういった特別な力を持つ人間は他にもいる。無論、世間一般には知らされていない。能力保持者は物心がつく年齢になると、どこでどう知られるのか、国の人間が訪れ、強制的に養成機関へ入るよう促される。秘密裏に訓練されるのだ。
そしてその養成所でオレは、致命的な欠陥があることを知らされた。
それは力を使い続けると、少なからず体の機能に影響が出るというものだった。つまり、無制限ではないということだ。限界状態で力を使えばヒトの姿に戻ることは極めて難しく、死に至ることも必然の帰結だ。

夢に見ていた断末魔の苦しみ。あれはヒトの姿で任務をしていた最後の場面だ。
体はボロボロで、そうした最中一瞬の隙を突かれた。背中側から襲われ、血が溢れ出る体で最後の力を使った。雨の中、必死に追っ手を振り切り、人気のない暗い路地で力尽きた。
そこに、・・・蜜柑が現れた。


「どうするつもりだ?」

遠くを歩いていた蜜柑が通り過ぎ、家の中へ入るのを確認すると、すぐ様口を開いた。
「さて、どうするか」
ペルソナは、ニヤリ、と不適な笑みを浮かべた。
「おまえはもう、死んだことになっている。だが、生きていた。しかも普通の飼い猫になりさがっている。その様子だと、やはりもう元の姿には戻れることも出来ないのだろう?」
「だから、なんだ」
「ヒトに戻れなくても、厄介なことに記憶はそのまま残っている。さて、こういう場合気の毒だが、」目を細めた。

「抹殺だ」


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