あまり楽しそうに笑うな

「へえ、これがこの間の猫ちゃんかあ、」
しげしげと眺める若い女。首を左右に動かしながら、まるで今まで一度も見たことがない生物、珍獣でも見るように、目を大きく見開いている。
「信じられへんやろ?」
「うん、こんなに元気になるなんて、すごいね」
蜜柑がテーブルの上で、ティーカップに紅茶をいれながら頷いた。
この会話、――― あの現場に一緒に居合わせていた女か。
「この猫ちゃん、なんかちょっと、普通の猫ちゃんと感じが違うね」
「そやね、目も紅いし」
「それだけじゃなくて、」女はテーブルに近付き、椅子に腰をかけながら言った。
「纏まってるというか、粗雑感がないというか、どこかで飼われてた猫ちゃんだったりして」
「え?」蜜柑が驚いた顔をする。
「そんなことないやろ、・・・飼われていた猫なら、あんな風に・・・深手を負って倒れてたりしないやろ、」やや動揺している。
「そうかな、たまたま出かけてて喧嘩か何かに巻き込まれて、とかあるんじゃないの?」
蜜柑は不安げな表情で黙り込んだ。
この表情(かお)――――、
「なーに、深刻な顔してんのよ」女は顔をしかめた。「それより猫ちゃんにかまけてて、彼に何か言われたりしてないの?」
蜜柑の表情が、ふっと変った。和んだ顔つきになっている。
・・・彼?
「大丈夫や。ちゃんと事情は話してあるし、」立ち上がった。こちらに近付いてくる。「今度、クロのこと見に来るって」
「相変わらず、理解のある優しい彼だよね」
蜜柑は微笑み、オレの体を抱こうと手を伸ばしてきた。だがそれを避けるように、すっと立ち上がり歩き出す。
「クロ?」
声を無視し、隣の部屋へ移動した。ベッドの上にあがり、背を向けるように体を丸める。
「もう、・・クロ、アンタってほんと、」
つれないんだから、と蜜柑の拗ねた声。女は、クスクスと笑っている。

男。
一瞬で顔つきが変った。
あんなに嬉しそうに笑いやがって。・・・ん?
オレは、何を。
妬いて、・・いるのか・・?
もう、人間に、元の体に戻れやしないというのに。

滑稽だ。


inserted by FC2 system