たとえ、このまま目覚めなくても

これはどんな状態を意味しているのか。
生きているのか、死んでいるのか。それすらわからない。何も感じない。
暗闇にたゆたう精神は、絶望の淵をさまよい続けても、しぶとく生を捜し続けているのか。いや、オレは・・・、
終わったのだ。
瞼を閉じた、あの瞬間。
すべてが―――。

(おまえは、もう戻れない)

雨に濡れた路上に横たわる、傷だらけの体。
冷たく朽ち果て、誰の目に留まることなく、無に帰る。
それでいいのだ。
後悔はない。
このまま、もっと深い底まで落ちていけばいい。

(大丈夫や、目を開けるんや)
・・何?・・目・・・?
(死んだらあかん、ホラ、目覚まさんと、許さんよ)
許さない・・?勝手な、ことを・・、
(アンタは強いんやろ、こんなことで負けてええんか?)
負ける・・・?
それは、・・・聞き捨てならねえな。

ドクン、と脈打ち、強烈な激痛が襲ってきた。
あまりの痛みに、体が一瞬跳ねあがる。
「ああ!気が付いた!」
間髪入れず女の声。さっきからずっと聞こえていた声か。
息をするのも苦しいほどの痛みの中で、キンキンと耳に響き渡る煩わしい声、思わず顔をしかめた。
うるさい。・・・・だが、
ゆっくりと瞼を開ける。
ぼんやりとした光。
徐々に見えた、女の顔。
「よかった・・」
泣いている。こちらへ手を伸ばし、そっと頭を撫でた。
「よかった、ホンマによかった・・。よう、がんばったな」

オレは、
・・・生きている。


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