不夜城

夜の街に出ていた。
目的があるわけではない。気の赴くままに歩いていたら、ここへ辿り着いていた。
隣接する建物の間を屋根づたいに移動し、あるビルの屋上から人の往来を眺めていた。煌びやかなネオンは眩しいほどに街中を照らし、不夜城そのものだ。
喧騒は嫌いだ。この明るすぎる夜も、何もかも。任務が夜に集中し、こうした状況下で人知れずギリギリの選択を強いられることに神経をすり減らしていたせいで、この雰囲気をどうしても好きになれない。
なら、どうして。
『今日は、遅くなるからお迎えはええよ』
朝、笑顔でそう言い残し出かけていった蜜柑。
あの男に会うのだろう。
気の赴くまま、
・・・彼女を追って、ここまで来たのか ―――― 否定はしない。

あの日、蜜柑の男に逢って以来オレは、以前にも増して蜜柑との間に距離を置いていた。笑顔を向けられ、触れられる度に自分の中の何かが大きく変ることを恐れていたからだ。
何かとは無論、感情部分の変化だ。どうやらペルソナが放った言葉は予想以上に意識の中に食い込んでいた。認めたくはないが、このまま進んでいくとヤツの言ったとおりになりかねない。どこかで意識的に歯止めをきかせなければ、彼女と一つ屋根の下で暮らすことすら、難しい状況になるだろうことは想像がついた。それほどに、オレは、
だが結果的にこれは、蜜柑に辛い想いをさせることになった。避ける度に表情からは笑顔が消え、ときに目を潤ませていることもあった。淋しさが身を覆いつくし、元気をなくしていくのが見てとれた。オレの一方的なエゴが、彼女をひどく傷つけていった。
あんな姿は、もうごめんだ。
大好きと言われ、抱きしめられたときに見せた嬉しそうな顔。愛おしいげに何度も名を呼び、泣いていた。

どこまでいけるかわからない。
この姿でいることをひどく憎む日が来るかもしれない。
それでも、あいつの笑顔を守ることが出来るのなら、憎むことはきっとその比ではないかもしれない。

ゆっくりと身を屈め、腹ばいに座った。
ここから眺めていても、蜜柑を見つけられるとは限らないが、気が済むまでいることになるか。
だがそのときだ。
眠れぬ不夜城の下、衝撃的光景が目に入った。


inserted by FC2 system