君を守れるなら

ペルソナは苦痛に喘ぐオレの姿を、楽しげに見下ろしていた。
「おまえは、あの女が好きなのだろう?」
オレは、ぎり、と歯を食いしばった。何を、
「・・てめえ、」
「やはりな」
「あいつは関係ない。手を出すな」
ペルソナは、目を逸らし、かぶりを振った。
「大人しく手にかかるなんて、おかしいと思ったが。やはりそういうことか」
「あいつは関係ないってんだろが」
そう、あいつは、蜜柑は関係ない。
確かに。抵抗することなくペルソナの手にかかったのは、事態をこれ以上大きくしたくなかったからだ。下手に抵抗し、逃亡を図れば、状況を悪化させるだけだ。その結果、オレを拾った蜜柑に何らかの危険が及ぶ可能性は大きい。この後に及んでそれだけは、絶対に避けなければならなかった。
運命は変えられない。変えられないのなら、このままヤツの意のままに死を迎えるのが、一番だと思った。それで蜜柑を守れるのなら。
だが心にある彼女への想いが、・・逆にヤツの不審を買った。
「生き地獄も悪くない」
ペルソナは言いながら、再びしゃがみ込んだ。そして掴みかかるように首輪に、触れる。
「おまえはもうヒトの姿には戻れない。感情がすすんでいくにつれ、どうにもならないその惨めな姿でいる自分自身に嫌気がさすだろう。それは、おまえが考えている以上にひどい苦しみだ」
冷徹な声が響く。もう片方の手で首輪に何かを嵌めていく。これは、
「人間として機能しない。その不自由な状況に足掻き、苦しめばいい」
立ち上がった。
「これはおまえが一言でも言葉を発すれば、瞬時に喉を貫く。外そうとすれば、・・言わずともわかるはずだ。ますます落ちぶれたな、棗。裏では畏怖の念を抱かれていた存在が、哀れだ」

――― 哀れだ


「クロ、今日はどうしたん?食欲ない?」
ふと物思いから覚めると、蜜柑がイチゴとオレを交互に見ていた。あわてて爪を出し、イチゴを転がす。
「なんや、ぼう、としてたかと思うと、慌てて食べだして、アンタって人間みたいやなあ」
蜜柑は、クスリと笑った。
・・人間。
果たしてペルソナの言うような苦しみが本当にやって来るのか。
こいつには既に大切に想う男がいて、それに確かに嫉妬はしていた。だが・・、
そのとき、インターホンが鳴った。



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