蜜恋

もう傷の痛みは感じなくなってきていた。
どのくらいこうしているのか、降り注ぐ雨は体から容赦なく温度を奪い取り、朦朧とする意識の中で感覚を失いかけている。
激しく流れ出ていた血はかなり細くなり、雨水に混じると、色を成してはいなかった。
瞼が、重い・・。
閉じかけているそれの、わずかな隙間から見える、黒いアスファルト。
瞳に映る、無機質な光景。
このまま、目を閉じたら、――― 終わる。
その方がラクになるだろう。
さあ、閉じろ。
すべてを遮断しろ。
もう戻れないんだ。
迷う理由など、どこにもない。
どこにも、

「あれ・・、」
「なに、どうしたの、蜜柑、」
「ごめん、ちょっとこの傘持ってて、」
足音が近付いてくる。
うっすらと見える人影。
「蜜柑、なに?・・・っ、やだ、ネコ?それも黒って、不吉」
「ひどい傷や」
「やめなさいよ、もうダメよ、」
「・・・・・・・・」
「蜜柑?」
「・・ダメなことなんかない。ほら、まだ、」
体に、何かがふれた。
・・・温かい。
「大丈夫や、今、助けたる」
・・・助ける・・何を・・・
・・・限界だ。

瞼が、すう、と下りた。


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