You dislike it /stage 2


さて、リーダーが決まれば、あとは簡単である。
みんなで話し合い、バランスの良いメンバーになるように調整していくだけだ。
通常ならそれで終わる。だがこのクラスはやはり例外らしい。
正田スミレことパーマが、リーダーだけをこっそり隅に集めて、ある取り決めをした。
「いい?棗君、ルカ君、陽一君たちは、すべての調整が終わってから最後にどこに入るか決めさせてもらいましょ」
「じゃあ誰が最初にお目当ての人をとるか、その順番はどうやって決めるの?」そう言う美咲は、翼狙いだ。
「ここはノーマルに、じゃんけんで決めましょ。勝った人から順番に、好きな人をとれるということで。ぬけがけはナシよ」
いいわね、というかけ声とともに、蜜柑以外の女子は既にメラメラと気合を入れ始めている。
――― なんちゅう強引な決め方や。こんなんで男子は納得するんやろか。
しかし、・・・みんな熱心やなあと蜜柑は、変に感心する。
じゃんけんが弱いことを自覚している少女には、もはやどうでもいいような取り決めだ。
誰を選ぶとかそういうことで悩むことは、まずないだろうと思う。

せやけど、・・・・万が一勝ったら・・・・?ウチは、誰を?

・・・棗。

アイツはあかん、アイツだけはあかんわ。
いくら好きでも、旅行中までバカにされるのは、たまらないと蜜柑は思う。
正直、棗以外の男の子は、皆一様に親切で優しい。
旅行は楽しむものだ。気分を悪くしながら行くものではない。
蜜柑は、今だ本から目を離そうとしない棗をちらりと見る。
自分をリーダーに指名し、何を考えているかさっぱりわからない。
「ほら、蜜柑、さっさとグループのメンバー決めるわよ」
そう声をかけられ、慌てて棗から気持ちを切り離した。

その後グループ決めは、トラブルもなく順調に進んだ。
そしていよいよラスト、2組自慢の美少年たちを選ぶときがきた。
まず、じゃんけんに勝ったリーダーから順番にお気に入りの男の子を選んでいくことについて、あらかじめ彼らに同意を得た。とは言っても、自分達に選ぶ権利がないことに始めはやや困惑気味だったモテ少年たちだった。しかし、女の子たちの異様に盛り上がった雰囲気に圧倒されつつあるのと、以前にもこのような決め方をした経緯があり、それ以上の抵抗は無駄と承知したようだった。
このクラスは女子の機嫌をとっていた方が、秩序が保たれるのだ。
「じゃあ、はじめましょ」
パーマの掛け声とともに、じゃんけんをする。何度かあいこが続いたが、5回目で漸く決着が付いた。だがその結果に彼女たちは、いっせいに溜息をつく。
「・・・一番は、佐倉さんなのね」 力なくパーマが言う。
蜜柑は、手は最後に出したグーのまま固まり、目を大きく見開いたまま固まっている。
「う、ウチ?!」
「そうよ、何ボケッとしてるのよ。早くしないと、飛ばしちゃうわよ」
きーとハンカチを噛んでいるパーマは、4番目だ。彼女は棗かルカ狙いだったのだ。
クラスの女子の視線が痛いほど、蜜柑の体にあたる。

―――― なんで?ありえへんって

こんな時に限って勝ってしまうなんて・・・信じられない。万が一勝ったら、なんて一瞬考えてはみたが、やっぱり最後の方だと信じて疑わなかった。
教室中が、しんとなる。そこで蜜柑は一気に緊張する。皆が誰を選ぶか、固唾を呑んで待っていた。そのあまりに異質な空気にますます体が硬直し、思わずうつむいてしまう。

う、早くせな。でも、誰を。

蜜柑は、おもいきって顔を上げた。
目の前には、棗の親友のルカが心配そうに彼女を見つめていた。

ルカぴょん・・。

いつも優しくて、何かと気にかけてくれる。ほんまにええ人や、と蜜柑は思う。
あの温かい、キラキラした笑顔は本当にステキで、ファンの子も沢山いる。
彼とだったら、すごく楽しい旅行になりそうな気がする。そう棗と違って、。

・・・棗。

蜜柑は頭を軽くふった。そして。
「・・・ルカぴょん、いい?」恥ずかしそうに、小さな声でお願いをした。
「・・佐倉」
ルカが嬉しそうに彼女の名を言う。
「俺で、よかったら」
クラスの一部の女子から、大きな溜息が漏れた。
「ルカぴょん、ありがとうな」
蜜柑は快諾を得られた安堵感から、思わず笑顔が溢れる。それを見たルカがプレミアものの微笑みを見せた。
そうや、この笑顔や。やっぱりルカぴょんの笑顔はええな、と気分も最高潮になりつつあるとき、ふと彼の隣にいる深紅の瞳をした少年が目に入った。

えっ・・・・?

思わず笑顔が固まる。


彼は、ひどく不機嫌な顔をしていた。


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