prince
サラサラとした黒髪が指の間を擦り抜ける。
その心地良さに顔が綻んだ。
手のひらで艶やかなそれの表面をゆっくりと往復させた。
「・・・・・・」
僅かな身じろぎ。
膝の上に感じている温かみは、徐々に重さを増していく。
緩やかな手つきで髪を耳にかけると、いつものピアスが顔を覗かせた。
白皙の頬と長い睫毛。
安心したように閉じられた瞼。
無防備に軽く投げ出された腕。
規則正しい呼吸が、膝をくすぐる。
眠りの底に沈んでいく彼は美しすぎて。
ため息が零れた。
ひどく疲れていたから。
今にも倒れそうだったから。
見ていられなかった。
傍に座り、軽く膝を叩いてみた。
棗は、こんな風に甘えたりはしないと知りながらも。
何かせずにはいられなくて。
彼はふっとかすかな笑みを浮かべた。
そして、体の力を抜いた。
傾いだ頭を膝にのせて、静かに瞼を閉じた。
優しく髪を撫でて。
指先に、すべての愛おしさを込めて。
おやすみ。
・・・・棗
fin