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それでも想いがとまらない

stage 2 / 君を抱きしめたい

あの日は、雨がひどく降っていた。
薄暗い夕方、どこか物寂しさを感じるような天候だった。

自分にしては珍しく、その日の帰宅時間は早い方だった。いつものように自宅近くの駅で降り、帰路についていると、雨の音に紛れ、ちゃりん、という鈴の音が微かに聞こえた。
思わず立ち止まる。

「・・・・」

音源を辿り周辺を見渡すが、それきり聞こえてはこない。さして気にもせず歩き出そうとすると、またどこからともなく鈴の音が聞こえてきた。
この周辺は、住宅が立ち並ぶ閑静な土地だ。したがってあるのは、それらのものか、病院か神社くらいだ。

・・神社。

現在立っている場所は、まさしく神社の垣根の前だ。

しかし確かめるほどのことだろうか。
たかだか鈴の音くらいで。

「・・・・・」

少し躊躇したが、あと数メートル歩けば入り口があり、鳥居越しに神社が見える。
通りかかるついでに覗く程度なら構わないと思い、歩き出した。

程なくして入り口にさしかかり、目線を鳥居奥へと走らせた。
そこには背中を丸めた人影が、雨越しにうっすらと見えた。更に目を凝らす。するとその人影は、こちら側に体を向けた。

オンナだ。
それも某私立校の制服を着ている。
腕の中には、猫を抱いていた。
彼女がその猫を抱きなおす。先ほどと同じ鈴の音が、今度ははっきりと聞こえた。

捨て猫だろうか。
こんな場所に置き去りにするシーンは、アニメやドラマではお決まりの展開だ。彼女は猫を温めようとしているのか、腕の中で包み込むように抱いていた。
時折、空を眺めている。
すると何かを振り切るように、その猫をダンボールの中へと戻した。
そして神社のひさしの奥へと押してやる。
程なくして、彼女が雨の中を飛び出した。
頭には、かばんを載せている。傘を持ってはいないようだ。
懸命に走ってくる。
こちらに近づいて来ようとした刹那、咄嗟に垣根に身を隠した。

そこからは、まるでスローモーションのようだった。
雨に濡れた横顔が現れる。
その面持ちは、想像以上のものだった。
悲しそうに目を伏せ、必死に何かをこらえている。今にも泣き出しそうな感じだ。
長い髪は制服に張り付き、鞄を支えている腕は折れそうなほど細くみえた。
やがて向けられた背中は、儚さを感じさせるほどに頼りなかった。


雨の中で、その背中が遠ざかっていくをただ見つめていた。

「・・・・・・」

傘の柄を、やや強く握り締める。


自分の中のどこかで、鈴の音がひとつ聞こえた。









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