Botan / 後編


小さな炎がゆらゆらと燃えている。
傍にいた長屋の女房がたし木をすると、その炎は一瞬、細い火柱をあげた。
棗は、それをぼんやりと見ていた。

今日から盆の入り、長屋の門前では精霊を迎えるための火が焚かれていた。通りがかりに見かけて、つい足を止めた。この火に込められた想いは皆同じで、目に見えない邂逅に心寄せる。
蜜柑は、あいつは、・・・迷わず帰って来るだろうか。

――― 悔やんでいた。
棗は、必ず逢いに行くという、ただひとつの言葉を言ってやれなかったことをひどく悔やんでいた。
振り返ることは有意義なことだが、こう取り返しが付かないものになると何の意味もない。蜜柑の状態が芳しいものではないという察しがついていたにもかかわらず、現況と先行きばかりを気にして、すべてを断ち切ろうとしていた。客観的に見れば当然の判断であり、無論、棗自身もそう考えることに疑いをもったことなど、これまで一度たりともなかった。

しかし、内実はそう簡単に割り切れるものばかりではないのだ。未知な経験、あのような惹かれあい方をしては、体裁を保つことなど不可能であることを身に染みて痛感した。升の中を綺麗に覆いつくせるような感情ばかりじゃないのだ。人はこの狭間で悩み、苦しむ。

あれから、せめてもの供養にと弔う毎日が続いている。気が付くと、別邸まで足を伸ばしていることもあった。立ち直るには、どれほどの時間を要するものか。

「よう、色男」
肩を叩かれる。声だけで誰かがわかってしまう。眉根がよった。顔は動かさず、瞳だけを向ける。
「何を、ぼうっとしてんだ?もしかして、この火を頼りに来る女でもいるのか」 にやりと笑っている。
「・・・・・・・・・・」
棗は、うんざりとした顔を向けた。

――― 殿内 明良、隣に住む女たらし。
素性は本人が明かしたがらず定かではないが、以前、井戸端で女房たちが、どこかの大店の跡取りだと話していたのを聞いたことがある。女の出入りが絶えず、不埒な印象だが、根は悪くはないと感じている。こうして、余計な詮索さえしてこなければ。

「相変わらず不機嫌だねえ。ま、それがおまえという奴だけど」 
棗は、不機嫌なのはてめえがいるからだ、と喉元まで出かかったがとどまる。どうせ何を言っても、のれんに腕押しなのだ。
「そう言えばこの間、流架が来てただろ。あんな朝早く、何かあったのか?」
表での密やかなやりとりが、何となく聞こえていたのだろう。薄っぺらい戸一つでは、無理もない話か。因みに、流架と殿内も知り合いである。とは言っても、流架が何度もここに来ているうちに、自然と親しくなったという、何の変哲もない関係だ。
「別に、何でもねえよ」
「そうなのか?何か深刻そうな雰囲気だったように思うんだが」
「気のせいだ。何でもかんでも、聞き耳たててんじゃねえ」
その棗の物言いに、殿内は、悪意のない笑みを浮かべる。
「たまたまだ、たまたま。泊まりに来ていた娘が朝早く帰るっていうんでね、送っていこうとしてたんだよ。そしたらおまえら、何か深刻そうだからさ。戸を開けるに、開けられなかったんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
ため息がもれる。こういう話題まで女がらみか。ほとほと呆れる。
棗は、歩き出す。長話はゴメンだ。
「今度流架に会ったら、飲みにいこうと伝えておいてくれ」
「・・・・気が向いたらな」 背中を向けたまま、答えた。

邪険な態度をとったが、殿内は殿内なりに、心配していたのだろう。それはわかっている。奴は、そういう男だ。だが話しても仕方がない。もう終わったことだ。
いや、・・・・・本当に終わったことなのだろうか。
自分の中では、まだ何一つ終わってはいない気がした。惰性的に現実を受け入れてはいるが、内心では、決してあきらめなどついていない。

いつまでもこのままでは、いけないということはわかっている。断ち切れない想いは、死者を惑わす。送り火が焚かれる頃には、・・・・気持ちの整理をつけなくてはならないだろう。

夕刻の風は、寂しさを感じさせた。

その余韻を引きずりながら、夜を迎えた。

まだ微風が残っているせいか、表ではどこかの家の風鈴がちりり、と鳴っていた。だがそれ以外はいつもと変わらない静かな夜だった。明るい行灯の元、棗が滑らす刃先が砥石の上を往復する音だけが、やけに響いている。
しかし間もなく戸外から、かすかに聞こえてきた音に、刀を研ぐ手を止めた。
静寂を震わすようなその音に、耳を澄ませる。
「・・・・・・・・・・・・・」
・・・下駄だ。誰かが歩いてくる。段々と近付いてきていた。
―――― こんな夜更けに、誰が歩いている?
この長屋に、こんな音を鳴らしながら帰ってくる人間はいない。
何となく引っかかった。立ち上がり、戸口へ向かう。迷うことなく戸を引き、顔を出した。
だが、眼前に飛び込んできた有様に、言葉を失う。
――――― !
「・・・なんや、そんなに驚いた顔せんでも、ええやろ」 
・・・蜜、柑・・・、間違いない。牡丹の絵柄が美しい燈篭を下げ、見目麗しい振袖を着た蜜柑が、ふわりと微笑みながら目の前で立ち止まる。傍には、あの女中の蛍が控えていた。
「・・・・なぜ、」 
「アンタが逢いに来てくれへんから、ウチが来たんよ」 屈託なく言う。
「・・・・・・・・・、」
うまく言葉が出てこない。当然だ。亡くなったと聞かされた蜜柑が、常人のように、しっかりとした姿で現れたのだ。この事態を、どう受け入れればいいのか。
「・・・迷惑、やった?」
驚きのあまり、なかなか話そうとしない棗に、蜜柑は少し淋しげに問う。しかし棗は、すぐに首を左右に振った。
「んなわけ、・・・あるかよ」
「ホンマに?」
「・・・・ああ」
「よかった」 
蜜柑は、蛍の方を向き、嬉しそうに笑う。
迷惑で、あるはずがない。それはうまく機能しない感情でも明白だ。どんなにこの状況に疑念を抱いても、愛おしい女が逢いに来たという嬉しさを前にし、これほどの喜びはない。
「・・・手を、」
「え?」
蜜柑は、不思議そうな顔をしながらも、戸惑うことなく手を差し出す。すると棗はその手を、壊れものを扱うように、やんわりと握った。
「・・・・・・・・・・・」
温かい。体温がある手だ。安堵感が、熱く胸に込み上げた。これは、確かだ。確かに蜜柑は、・・・棗は感極まり、握った手をそのまま引き寄せ、蜜柑の体を抱く。
「・・・・・棗」 
甘く、響く声。その声に、抱きしめた腕に力を込める。
「生きているんだな・・・、良くなったんだな」
「・・・あたりまえや。何で、そないなこと聞くんや?」
クスリと笑う。棗の体に、頬をすり寄せる。
「流架から、・・・お前は亡くなったと聞かされてた」
「・・・・、流架先生」 蜜柑は、体を離し、棗の顔を見る。「ウチらのこと気付いとったから、・・・もう逢わん方がええと思うて、せやから、」
「つきたくない嘘を、ついたってことか?」
蜜柑が、こくりと頷く。
「・・・そうか。あいつは、あいつなりに考えて」
「せやけど、逢いたくて。・・・アンタにどうしても逢いたくて。ウチ、」
言葉を遮断するように、もう一度強く抱きしめる。
「わかってる」
「・・・・うん」
――― もう、離さない。

「お取り込み中悪いんだけど、」
二人は一瞬はっとする。そして直ぐに、背後に顔を向けた。灯篭を持った蛍が、当てられたような顔つきでこちらを見ていた。
「また、あとで迎えに来るわ」
「ご、ごめんな」
「別に、」 蛍は、目線を動かし、棗だけを見た。あの最初に出逢った時に感じた怜悧さは影を潜めている。「蜜柑を頼んだわよ」 
「・・・・ああ」
棗は、目力も強く返事をした。
「じゃあね」
蛍は言いながら蜜柑の顔を見やると、踵を返し、来た道を戻って行った。



部屋の壁に、棗の姿が大きな影となって映っている。その影が、蜜柑の上に優しく重なり、ゆっくりと髪を撫でる。
「・・・・棗」
蜜柑は、吐息のような声で、名を呼んだ。手を伸ばし、棗の頬に触れる。
「蜜柑・・・」
棗は、頬に置かれた手を握り締める。その手を離さず、唇に軽い愛撫をすると、蜜柑はささやくように言葉を残し、ゆるりと瞼を閉じた。
(―――、好きや、・・・・)
その声は余韻を残し、棗の身体の芯の奥深くを熱く融かす。ふたたび重なり合った唇は、やがて深いものとなり、息苦しさをも忘れる程に求め合った。

蜜柑がここを訪れるのは、今日で三日目だ。毎晩同じ時刻になると、牡丹の灯篭を下げ、駒下駄の音を響かせながら、やって来る。そして朝方、蛍が迎えにくるまでの間、共に過ごす。

愛おしくて、ただ、愛おしくてたまらなかった。切望してやまなかった蜜柑が、確かに腕の中にいる。幼さが残る顔つきとは裏腹に、燭光を浴びた体は充分成熟していた。そのなまめかしい肌に何度となく愛撫を繰り返した。血管が透きとおって見えるほどの白い首筋や緩やかに浮き出た鎖骨には、幾つもの紅い痕が残った。
蜜柑は、何度も棗の名を呼んだ。その度にしなる背筋と上気した赤い肌を、棗は恍惚としながら見つめた。求め合い、互いを埋めつくすように愛し合う。離れたくなかった。このまま深い底へと落ち、二度と戻れなくてもいいとさえ思うほどに。

それが真の底だと、気づかぬまま。



殿内 明良は、口に含んだ水をゴクリと飲みこむ。
いつもの下駄の音が、地を引きずるように響いてきたからだ。それはここ数日の深夜、いつも同じ時刻に聞こえ、隣屋に住む棗の戸口の前で止まる。
殿内は、思わず苦笑いをする。
―――― まったく、あいつも隅に置けないねえ、
表面では、女好きの自身に冷たい視線を送ってくるくせに、ちゃんとやることはやっている。
殿内は、表と内の隔たりを考えると、可笑しくてたまらなかった。これはやはり、ひやかしてやらなければ。・・・と、その前に。
殿内は、戸を音を立てないように引く。棗がどんな女を好むのか、一度見てみたい。そろりと顔を出した。
抱き合っていた。なんだ、取り込み中かと、緩んだ顔が更に緩んだ。野暮ったいことはやめるべきだと思い直し、顔をひっこめようとした。だがその刹那、驚愕で体の動きが止まる。ちらりと見えた、娘の顔。
「・・・・・・・・・!」
―――― ・・・骸骨だ。棗の腕の中にいる女は、・・・生身の人間じゃない。
殿内の表情が、忽ち歪んだ。少しずつ、後ずさりする。板間のへりに、ふくらはぎがぶつかり、そのまま惰性で座り込んだ。
―――― あいつ、・・・なにやって、
悪寒が走った。棗は、気付いていないのか。何故、こんなことに。
衝撃を受けた思考が、警鐘を鳴らし始めていた。そして、ある考えを導き出す。

このままでは、取り殺される。




盆も終日を迎えた昼間、流架と殿内が尋ねてきた。ふたりは雁首揃え、何やら深刻な顔をして、棗の前に座っている。
「なんだ、おまえら、揃いも揃ってシケた面しやがって、」 
棗が呆れたように言うと、流架は胸元に手をいれ、少量の束を畳の上に滑らす。
「・・・・なんだ?」
「御札だ」 殿内が言う。
「・・・札?」
流架が、首を上下させる。
「棗、・・・・あの娘さんが、尋ねて来てるのかい?」
棗は、目を瞠った。そして殿内の方に目をやると、あきらめたように息をもらした。
「だったら、何だってんだ。あいつは生きていたじゃねえか。下手な嘘つきやがって、」
「違う」 流架が畳み掛けるように、強く言う。「棗、あの子はもう亡くなったと教えたじゃないか」
「だがあいつは、確かにここに来ている。間違いない」
「流架、」 殿内が呼ぶ。「こいつには、わからないことだ。娘の本当の姿が見えていない」
「どういうことだ?」 棗が、きつい眼差しを向ける。
「偶然見たんだ。昨日の夜、おまえを訪ねてきた娘を。その姿は、」 ゴクリと喉を鳴らす。「生身の女じゃなかった・・・哀れな骸の姿だった」
「・・・・・・・・・、なに、言ってやがる、」 棗の声が掠れる。
「棗、あの子はもう死んでいるんだ」 流架が訴える。「このままじゃ、命が危ない」
「おまえ何を、」 
「あの子に逢うようになってから、自分の顔、鏡で見たことある?」
「見てねえよ。それとこれと、何が関係あんだよ」 
棗は怪訝な口調で、問い質した。すると殿内が、袂から小さな手鏡を取り出す。
「見てみろよ」
棗は不満気な雰囲気を露わにした。だが、しぶしぶ手鏡を受け取る。そして自身の顔へ持っていった。
「・・・!」
棗は、鏡に映った自分の顔を見て、思わずそれを落としそうになった。
――― なんだ、
頬はこけ、血色が悪く、生気を失っている。死人のような顔。
「これでわかっただろ。このままあの娘と逢瀬を繰り返していたら、おまえは取り殺される」
「・・・・・・・・、」
棗は、手鏡をギュッと握る。その様子を見ながら、流架が静かに言う。
「この御札は、あの子のお墓がある寺の和尚さんが用意したものなんだ。今夜は、これを入り口に貼り付けておいて。どんなに声をかけれらても、決して戸を開けては駄目だよ」
「・・・・馬鹿な、」 棗が、呻くように言う。「あいつは、・・・蜜柑の体は、生きているみたいに温かった」
「惑わされているんだ」 流架が悲しげに言う。「姿も体温も、棗にだけは、本物のように見せている、いや棗には、・・・そう感じたり見えてしまうのかもしれない」
「・・・・・・・・・・・・・・」

(−−−好きや、)

棗の中で、幸せそうに綻ぶ、蜜柑の顔が浮かぶ。
あの声も、美しい白肌も、梳いた髪も、何もかもが、この世のものではないと言うのか。

(――― 棗・・・)

ぎりりと、歯を食いしばる。
悔しさとも悲しさともつかない感情が、湧き上がる。

「棗、約束して。どんなに辛くても、絶対に、あの子の言うことに、応じてはいけないよ」
流架が念を押すように、言った。

胸がえぐられそうだった。

その気持ちを吐き出すように、棗は、畳をドンッと、強く叩いた。



――― 深夜。

いつものように微かに、下駄の音が聞こえてくる。棗は灯りを消し、気配を消すように耳を澄ませていた。やがてその音は、戸口よりも数歩手前で止まる。札のせいで、戸に近づけないのだろう。
――― 蜜柑、すまない・・・
心の中で、何度も同じ言葉を繰り返す。繰り返す度に、自分の中の何かが欠落していくようだ。
外からは、何も聞こえなかった。寸間、沈黙が辺りを漂う。だが、その沈黙に紛れるように、すすり泣く声が聞こえてきた。
―――― 蜜柑、
いたたまれなかった。今直ぐにでも飛び出して、あの体を抱き締めたかった。
「…・・棗」 悲しげな声で呼んでいる。「もう…逢われへんの・・・?ウチら・・・」
「・・・・・・・・・・・、」
最後の方の言葉は、泣き声にかわっていた。棗は、力なくうな垂れる。
自分たちは、・・・・何のために出逢ったのだろう。こんな思いをするために、出逢ったのだろうか。
ゆるりと顔を上げ、戸を見つめる。
(――― どんなに辛くても、絶対に、あの子の言うことに、応じてはいけないよ)
息を潜め、音をたてずに、出入り口へと近付いて行く。
――― こんな別れ方をするために、・・・出逢ったのか?
棗は、引き戸の表面に、身を寄せる。
「・・・棗」
「・・・・・・・・」
「ウチ、・・・幸せやったよ。今までで、一番・・・」
「・・・・・・・・」
「せやから、ありがとうな。・・・・アンタのこと、ずっと忘れへんよ。・・・幸せに」
「・・・・・・・・・」
すすり泣きの声と共に、下駄の音が徐々に遠ざかっていく。
爪が食い込むほどに、手を握った。
・ ・・・幸せに、だと・・・?
指の力を抜き、腕をだらりと下ろす。そして薄く笑った。
・ ・・冗談じゃねえよ。
おまえ以外の、誰と幸せになれと?

引き戸に手をかける。そして、吹っ切るように勢いよく開けた。
「蜜柑!」

もう何も後悔はない。愛しい女は、ただひとりだ。
蜜柑が振り向く。
嬉しそうに、顔を綻ばせる。

その表情は、いつもと変わらない、あの蜜柑だった。




・ ・・なつめ、
『・・・・棗、』
・・・誰だ?誰が呼んでいる?
「棗!」
「・・・・・・・・・」
棗は、重い瞼をあげる。目に入ってきたのは、白い天井と心配そうに覗き込む蜜柑の顔。
「うなされとったよ、大丈夫?」 
瞳を動かす。部屋だ。そして、いつものベッドの上。
「・・・蜜柑」
「・・・・?何か恐ろしい夢でも見とったん?こんなの読んどるから、出てきたんちゃう?」
そう言って蜜柑は、笑いながら本を見せる。怪談「牡丹燈篭」だった。
――― 夢、か?
「ずいぶん、シブい本読んどるんだね」 パラパラとめくっている。
まだ頭の中がぼうっとしている。リアルな夢だった。
「うわ、漢字ばっかりや。よくこんなもの読んどるねー」
「・・・・・・・・・・・」
なかなか抜け出せない。手を伸ばし、本をめくっている蜜柑の手首を掴んだ。そのまま引き寄せる。
「な、ちょっと、」
体勢を逆転させる。そのまま覆いかぶさるように、組み敷いた。
「・・・・蜜柑」
「どない、したん?まだ昼間やで?」 恥ずかしそうに言う。
確かに、蜜柑はここにいる。健康そうな、いつもの彼女だ。あれは、・・・本当に夢だ。安堵が、体を包み込んだ。そのまま顔を近づけ、軽いキスをした。蜜柑がくすぐったそうにしている。
「もう、ホンマに、どないしたん、」
棗は、その声に構わず、胸元のボタンをはずす。蜜柑の肌が、より露わになっていく。
だが次の瞬間、体が凍りついた。
「・・・・・・・・・!」
鎖骨から、首筋にかけて残る朱痕。あの夢の中と、同じだ。
「棗・・・・」 
蜜柑の手が、頬にふれる。ぞくり、とした。手が氷のように冷たい。

「・・・・好きや」
蜜柑が微笑みかける。最後に見た顔と同じだ。
「・・・・・・・・・」

・・・・わかっている。
夢の中でも、この世でも、おまえだけしか、愛せない。

頬に置かれた手を優しく握る。


・・・・好きや、棗。




Fin



*あとがき*

いかがでしたでしょうか(笑)補足なんですが、蛍も蜜柑の後を追って亡くなっております;なので彼女も幽霊なのであります; 長々とお付き合い下さりありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたら、嬉しいです;;


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