横顔


「蜜柑、コレいる?」

昼休み。ベンチに座り、ぼんやりと寛いでいた蜜柑に、蛍が何かを差し出した。
それを見た蜜柑は、思わず絶叫しそうになるが、寸でのところで呑み込んだ。

「そ、それ、どないしたん」
声が震える。
「ふふ、この間ちょっとね。案外スキだらけなのよ」
勝ち誇ったような顔だ。
「ウチに、くれるんか・・?」
目が動かせない。
「欲しい?」
「う、うん」
ゴクリと喉を鳴らす。

目の前にあるもの、それは。

棗の写真。
それも、蜜柑がこよなく愛する彼の、

横顔。

少し俯いたその横顔は、目をわずかに伏せ、鼻から顎にかけてのラインが綺麗に強調された、
まさしく蜜柑好みのアングルだった。

棗はなかなか写真を撮らせてくれない。
被写体としては、ケチのつけようがないほどの容姿にも関わらず、
彼自身が撮られることを嫌がるのだ。


「ほら、」
蛍が写真をつきだす。
「ええんか?」
「確かに、売ったら良い値がつきそうだけど、アンタの彼だし、今回は特別にあげるわよ」
「・・・ありがとうな」
蜜柑は、大切なものを扱うかのように恐る恐る受け取った。
ふにゃりと顔が崩れ、締まりがなくなる。
「アンタの横顔フェチも相当なもんね」 呆れ顔だ。


ああ、幸せや。胸に抱きしめる。
夜は、枕元に置いて寝な。
こんなん嬉しいの久しぶりや。

背景は、ピンクの薔薇でいっぱいだ。


「なんだ、そのバカづらは」
「へ?」
だらしない顔を横に向けると、棗が覗き込むように見ていた。
驚きのあまり、目が一瞬にして大きくなる。
「う、わあああ」
訳のわからない声が出る。
「?ワケわかんねーヤツ。それ、」
顎で胸のあたりを示す。
「何もってんだよ」
「いや、その、これは、ええと蛍がな」と彼女のいた方に目をやれば、

・・・いない。

「今井がどうした?」
「どうしてもおらへん」 変な日本語だ。
「蜜柑、」
突如、耳元に息が吹きかけられる。
「ひゃ、」
驚いて、手が一瞬宙に浮いた。
必然的に写真がハラリと下に落ちる。
それを棗がすばやく拾い上げた。

蜜柑は、あ、あ、と声にならない声を出す。体が固っていく。

み、見られてしもうた。
まずい。

「ふうん」
棗が、さも無関心そうに写真を返してくる。
「・・・・・・、」
彼を見ながら、それを受け取った。
やや不機嫌そうにも見える。
「写真と実物、どっちがいいんだよ?」
「へ?」
突然の質問に、間の抜けた返事をする。
「どっちだ?」
「そ、そりゃ、実物に決まってるやないの」
何、ヤボなこと訊いてんねん。
「だったら、」
蜜柑の腕を掴み立たせる。
「実物にも同じこと出来るよな」
意地の悪い笑みを浮かべている。

・・・・は?

それはアンタを抱きしめて、
枕元に置いて、
同じように、バカずらをしろと?

「写真にばっか愛着沸いてんじゃねえよ」
それ真面目に言うてる?
「あんな顔、写真ごときにすんな」
・・・悔しそう?


もしかして、棗、アンタ写真に

・・・妬いてる?




fin



リクエストのお応えして、そっと再アップです。ありがとうございましたvv



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